「黒子っち」

黄瀬が名前を呼ぶ。
ぎゅっと、小さな背中を後ろから抱きしめながら、黒子の名前を何度も、何度も、繰り返し呼んでいた。
嫌なら嫌がればいい。逃げ出せばいい。
でも、黒子は抵抗をすることはなく、なすがままに彼を受け入れている。
腕の中に閉じ込められたまま、そっと首だけをひねると黒子は後ろを振り向いた。

「なんですか、黄瀬くん」
問いかけると、腕の力を強めながら、まるで呪文のように彼はその言葉を口にする。
「愛してる、本当に愛してるんス」
今までたくさんの人と出会い、付き合ってきたけれどこんなにも大好きで、愛していて、離したくなくて、こんな気持ちなったことは今まで一度もない。
こんな自分がいるなんて黄瀬は知らなかった。黒子に出会うまでは。
こんなにも、こんなにも愛している。ねえ、だから――。

「黒子っちも俺のことを愛してよ。愛しているって言ってよ?」
まるで駄々をこねるこどものような我儘をいう。
そんな黄瀬に、臆することも、呆れてため息を吐くこともない。ただ、彼の求めるその言葉を黒子は口にした。
「愛してます」
その言葉の中には一切の感情もなく、ただただ無情に部屋の中を響いた。
「これでいいですか?」
「黒子っちて、本当に冷たいっスよね…」
  思ってもいないことをなんの躊躇もなく言えてしまうことほど冷たいことはないのではないだろうか。
でも、ただ呟いただけの心のこもってない言葉でも言われて嬉しいと思う自分がいる。

「愛してるっス」

何度目になるかわからないその言葉を黄瀬は口にした。





END



2013/10/05